なぜ今漢方薬なのか 

現代医学はあたかも"検査すれば何でも分かる"と思われがちです。確かに癌の早期発見や臓器移植、遺伝子治療などめざましく発達したことは事実です。それぞれの臓器の専門医や特殊な病気の専門家がいて、誰でも最先端の医療を受けることができます。

その一方で、あまりにも専門化されすぎて、"自分の専門とするところは分かるが、それ以外はよく分からない"といった医者が多くできてしまいました。そのためいくつもの病気を抱えたお年寄りは、いくつかの病院に通院しなければならない状態になっています。

漢方薬は幾つかの生薬が組み合わさってひとつの薬になっています。また各生薬はいくつかの有効成分を含んでいます。それらは複雑に作用を強めあった り、副作用を弱めあったりしながら、全体的な効き目が現れる仕組みになっています。漢方では病気の捉え方が現代医学とは少し異なっており、ひとつの薬は特 定の病気に対応しているのではなく、病的反応性の共通性に対応しているので、解剖学的に全く異なった部位の疾患を治療できるのです。例えば、風邪薬として 有名な葛根湯という薬は、同時に肩こりやじんま疹の薬でもあります。このように、ひとつの薬でいくつかの病気を改善できるところが、漢方薬のよいところで す。

また、症状はあるのにどんな検査をしても異常が発見できず、ついには、"気にし過ぎ"と言われてしまうこともあります。現代医学では病名が決まらないと治療法が決まらないからです。

漢方薬は3000年も前の、検査などなかった頃から使われてきた生薬ですので、患者の訴えを徹底的に聞くことから治療が始まります。漢方では病名によって治療するのではなく、症状を持った治療すべき病人がいるだけなのです。

 「体力」と「病邪」 

自然治癒力という言葉があります。本来人間には病気に打ち勝つ力が備わっていると言う考え方です。現代医学的には抵抗力とか免疫力とか言われるもの です。これを漢方では「体力」という言葉で言い表します。これに対抗する病気の元を「病邪」と言い表し、細菌やウィルス、外傷、精神的ストレスなどが含ま れます。

体力が勝っていれば、多少の体力を犠牲にしても病邪を払いのけることができます。しかし、体がぎりぎりまで弱くなっている時やこれ以上体力を消耗できない時は体力を補って病気に打ち勝つ力をつけてやる必要があります。

病気を「体力」と「病邪」の闘争と考え、その力関係を見極めて治療法を決定します。ひとつの病気でもその病態や時期によって、治療法を変えていくのが漢方薬のやり方です。

したがって、漢方では体力を診断することは非常に重要なことなのです。
一般には"漢方薬は長くのみ続けなければ効かない"と思われていますが、むしろ「体力」と「病邪」の力関係によっては薬を変えなくてはならない状態があるのです。

 漢方薬の不思議 

漢方薬というと、他のほとんどの先生方と同様、西洋薬をいくらやっても効かない時に、"しようがないから、漢方薬でもやっておこうか"程度にしか考 えていませんでした。しかし、一旦使い始めてみると、思いのほか鋭い効き目のあることが次第に分かってきて、"少なくとも3年間はのみ続けるもんだ"と か、"慢性病にはいいかもしれないけど急性疾患には効かない"と思い込んでいた自分がなんて浅薄だったかと思います。

しかし、"今まで西洋薬を使ったけれどもなかなか治らなかった"とか、"西洋薬で副作用が出て苦しい思いをした"など治療側から見てもひとつの大き な壁が立ちはだかった時、ひとつの選択肢として、漢方薬を選んでいると言えるでしょう。また西洋薬と併用することで、生活の質(QOL)が向上する、また は西洋薬単独より治癒率が向上するとか症状が改善するならば漢方薬を積極的に使う意味はあると思います。

 未病を治す 

漢方には昔から『未病を治す』という言葉があります。体の変調だけがあり、検査をしても何も異常がなく、医者や家族からは『いつまでも治らない』と けむたがられていたりする人があります。この、"病気とはいえないが正常ではない状態"を漢方では『未病』と呼んできました。そしてこの未病に漢方薬は、 西洋薬にない効果をもたらすということが分かっていただければいいと思います。ここでは漢方薬を処方された場合の注意点を幾つかあげておきましょう。

■「漢方薬は長くのまないと効かない」ことはない

漢方薬は急性の病気にも適応症があり、また速効性のあるものもあります。場合によっては確かに日数を要すものもあるでしょうが、最低でも2〜3週間して全く効果がなければ、薬を変えるようにしています。

同じ病名でも人によって薬が違う西洋医学では症状や検査結果から病名を診断し病気の原因を究明し、その原因に対して治療を行います。それに対して漢 方では体の一部に現れた症状も全身の働きの歪みの反映と考えます。治療にあたっては体質や病態などを総合的に判断し、『証(しょう)』を決めます。証は単 なる診断ではなく、治療と一体の概念で、『陰・陽』、『虚・実』、『気・血・水』の概念上の異常を想定して診断にいたります。したがって同じ症状、病名の 人でも陰陽、虚実、気血水が異なれば薬の種類も変わってきます。

■「漢方薬は副作用がない」ことはない

『漢方薬は生薬だから体にやさしい』とか言われますが、漢方薬にも副作用はあります。漢方の診断は独特で、舌、脈、腹診をそれぞれ診て処方を決め、 これを『証(しょう)』といいます。中国では舌と脈を診ますし、チベットでは脈を診ます。腹診は日本独特のもので、この腹診によってより正確に診断できる ようになったと言われています。この証に合った薬でないと効かないし、副作用が出ることがあるといわれています。特に麻黄・地黄・大黄などが配合された物 は要注意とされています。また甘草という薬草は多くの漢方薬に配合されていて味や全体の調和を整える役を担うものですが、これが多すぎると偽アルドステロ ン症といって、血圧が上昇したり血清カリウムが低下したりすることがあります。幾つかの漢方薬を一緒にのむときは医師とよく相談してください。またこれと は別に漢方薬の効果が現れ始める時に『瞑眩(めんげん)』といって、一時的に症状が悪化することがあります。これはこれまでの固定されていた症状が治る過 程に起こるもので、薬が効いてくる兆候ですが、一般の人には見極めがつきにくいので、普段と違う症状が現れたら勝手に服薬を止めるのではなく、必ずご相談 ください。

■漢方薬はのみにくい

たしかに漢方薬は独特の香りや味があり、必ずしも万人に好かれるものではないと思います。しかし子供用に工夫されたものやまた最近は乳糖でコーティ ングして顆粒状にしたエキス剤もあります。どうか毛嫌いせずにのんでいただきたいものです。どうしてもという方は湯飲みに白湯をそそぎ漢方薬エキス剤1包 をあけて5〜10分静置しておくと自然と溶けますので砂糖や蜂蜜をお好みで加えていただくと大抵の方はお飲みになれますので一度お試しください。

■漢方薬は保険がきく

漢方薬は本来は煎じ薬ですが、もっと手軽にのめるようにしたエキス剤と呼ばれる顆粒状または粉末状の包装が開発されています。大きな病院でも一般の 開業医でもほとんどはこのエキス剤が使われています。そしてこれは健康保険の適用が認められていますので、薬局で数万円出して保険の利かない漢方薬を買う よりずっと安く手に入れることができます。今まで薬局で漢方薬を買っていた方は一度ご相談ください。